1.2.3 ベイズ確率(+BPSKのビット判定)
最尤推定の説明がこのページだけだと分かりづらいから、実際に推定問題を解いてみて理解してみる。
個人的には信号のビット判定問題が直感的に分かりやすいと思う。(デジタル通信についての知識が必要だけど)
問題
BPSKの信号点は、実軸上に2つ現れる形式が一般的。上の例だと、+1と-1のところ。
このどちらかを送信すると、受信機は伝搬空間中の雑音の影響で、若干元の信号とは違った点にある信号が受信される。
受信機は元の信号から若干ずれて届いた受信信号を見て、この信号はもともとは+1と-1どちらの信号だったのかを判定する必要がある。
上の例だと近いのは+1だけど、もしかしたら強い雑音のせいで-1の方から飛んできた信号なのかもしれない。
さてどのような判定が最適か?
大体の人がこう考える。
虚軸を境界として判定する。
つまり虚部を無視して、受信信号の実部が正であれば+1、負であれば-1と判定する。要は近い方と判定しましょうという考え方。
結果的に見ると確かにこの考え方は正しい。でも、なんでそういうことが言えるの?となると、なんとなく……としか答えられないことが多い。
今日はこの判定問題についてちゃんと考えてみる。
最尤推定
BPSKは実部だけ考えれば良いので、信号はすべて実数で考える。また雑音は加法性のガウス雑音を仮定する。
受信信号を次の式でモデル化。
:+1か-1のどちらかの値を取る送信信号
:平均分散のガウス分布に従う確率変数
最適な判定規範はを観測した時のの事後確率を最大にするを採用することだから、ベイズの定理を用いると
ここでもし事前分布に関する情報、すなわちの生起確率についての知識がなければ、それぞれ50%の確率で現れると仮定する。
するとは定数となるのでの判定に関与せず、最終的に
となる。
を最大にするを推定値とする手法は最大事後確率推定(MAP推定)である。
一方で、今現れたを最大にする方は最尤推定(ML推定)と呼ばれている。
よって、最大事後確率推定と最尤推定の違いは、事前分布が推定に関与するかしないかのみである。
さて、じゃあはどのように書けるのか。
今が与えられているので定数と考える。また、は確率変数なので、との和であるもまた確率変数となる。ここでは平均分散のガウス分布で与えられているので、は平均分散のガウス分布になる。
よって、
最後の式の第1項はに依らないため無視。第3項はがどちらの値をとっても+1になるのでやはり無視。
というわけで第2項が小さくなる方のを採用すればよいことがわかる。
故に、最終的にな判定基準として
を得ることができ、これは要するにさっき絵で示した「受信信号の実部が正であれば+1、虚部が負であれば-1と判定する」を表している。
先生は「直感的な判断を信用せず、一度はちゃんと理論的に証明したほうが良い」と何度もおっしゃってる。
実際その通りだと思うし、その計算過程は意外と楽しかったりするから、なんとなくで済ませずちゃんと確認するよう心がけよう。